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027

  • 河岸 剛作/会社経営

    KOUSAKU KAWAKISHI

BORA 60 LT | 2001

初めて買った大型ザック、初めてのアークテリクス、初めての富士登山、初めての北アルプス縦走テント泊と、初めてだらけの思い出深いザック。一時はアルパイン志向の「アルファ FL」ばかり背負っていましたが、あらためて比較すると、「ボラ」は少し重くても快適さが勝るので、最近は歩荷訓練にも出番が増えています。ほかの人より重い荷物が楽に担げるので、周囲からは「このザックはズルい」と言われます。当時は格好だけで選んだので、背負いやすさや機能なんてまったくわかっていませんでしたが、最新の「ボラ」と比較しても、当時から完成されていたことが伝わり、20年経ってもこのザックの性能に驚かされるばかりです。

購入した当時の私は、山を始めたての21歳。同年代でまわりに山をやる人間もおらず、頼れるものは装備と自分の体力しかありませんでした。道具を使う楽しみと経験不足の不安を埋めるかのように、あれもこれもと山道具をこのザックへ詰め込んでいたのを思い出します。

21歳の9月、登山経験半年にして、燕岳から大天井岳、東鎌尾根を抜けて槍ヶ岳を目標に上高地へ抜ける3日間の縦走に挑戦。重い荷物を背負って、若さと勢いだけで出発しました。燕岳合戦尾根あたりから、4つ年上の女性、60代の年配男性、私、それぞれ単独行の三人が、休みをとるタイミングが重なり、お話をするようになりました。年配の男性は私と同じコース、女性は常念岳に行くとのことでした。

1日目、私は大天井岳テント泊、お二人は小屋泊。翌朝、年配男性と意気投合したようで、女性も槍ヶ岳を経て上高地ルートへ変更するとのこと。二人はパーティを組み、私は単独のまま2日目の目的地、槍ヶ岳山荘テント場を目指しました。この日も三人になるタイミングが多く、山の話で盛り上がりました。女性から「カッコいいザックだね」と、当時は珍しかったお気に入りのアークテリクスをほめてもらい、ものすごくうれしかったのを憶えています。

槍ヶ岳から上高地への下山は三人パーティ。丸一日の行程は、仲良くなるには十分な時間でした。女性とは翌月10月に上高地の紅葉を見に行ったり、長野の冬のリゾートバイトを紹介してもらい、一緒にスキーを楽しんだりと交流がありました。その時も決まって背負っていたのは、このザックです。

もう少しお話しすると、私はその女性に片想い。結局恋は実らず、人生でやり直したいタイミングベスト3にランクインするほどのエピソードでした。およそ20年経った今でも、このザックを見ると少し苦い気持ちを思い出すことがあります。「あの時もう少し勇気があればなぁ~」なんて。この冬はアイスクライミングに恋をして、そちらで勇気を振り絞っています。恋に落ちてもフォールはしませんように。

bg