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016

  • 寺倉 力/ライター・編集者 (Fall Line編集長)

    CHIKARA TERAKURA

PROTON LT JACKET | 2017

これ以上息を切らさないペースで、けれども足は決して止めることなく、できるかぎり大きなストライドでスキーを前に送り出す。ただただ、ひたすら、そのことだけを考えて登っていた。場所はアメリカ・ワイオミング州ティートン・バックカントリー、手首の高度計は標高3,000mを超えようとしていた。

こんなに汗をかくハイクアップはいつ以来だろう。サングラスはとっくの昔に曇って使い物にならなくなり、自分の体からモウモウと湯気が立ち上っているのがわかる。

そんな状態でも「プロトン LT ジャケット」のノーストレスな着心地には驚かされた。体温はマックスまで上昇しているのに熱気を適切に逃がしてくれ、こんなに汗だくになっているのに着心地は変わらずソフトでさらりとしている。この日をきっかけに、僕は重度のアクティブインサレーション信奉者になっていくことになる。

それにしても、本場ワイオミングの「中級バックカントリーツアー」を少し甘く見ていたようだ。世界中から愛好者が集まる「ARC'TERYX Backcountry Ski & Snowboard Academy」に参加するとなった時に、数ある講座から選んだのがこのツアー。2018年2月のことだった。

最初は、せっかくだから「スキーマウンテニアリングクリニック」にと思ってみたものの、参加条件には標高差1,800mをスキンアップする体力と、ダブルアックスやクランポンの扱いに習熟し、ロープやビレイデバイスを使えること、とあった。いやいや、さすがにそれは敷居が高い。時差ボケの体力を見積もっても、「中級」あたりで“まったり”やるのが大人のたしなみというもの、と僕らは考えた。

当日の朝に集合したのは、僕ら日本チーム二人と、いかにもアメリカンな大柄のオッサン二人だった。見たところ60代後半以上だ。この人たちとなら絶対大丈夫。今日の勝利はつかんだも同然。そう思って歩き出したのもつかの間、彼らとは次第に距離ができ始め、森に入るころにはすっかり置き去りにされていたのだ。

どうせ「中級コース」でしょという気持ちの緩みに、あんなオッサンたちに後れを取るわけにはいかないという焦りが加わった結果、僕らは完全にペースを乱し、気づいた時には汗だくになっていたというわけだ。

帰宅してからあらためて参加条件を確認してみると、「中級コース」にはこう書いてあった。「標高差1,000m以上をスキンアップする体力と……」。

※参考までに言えば、白馬バックカントリーの人気エリア、八方尾根を唐松岳の稜線まで登り詰めても登行標高差は770mでしかない。

bg