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新名 健太郎/山岳ガイド
KENTARO SHIMMYO
ACTO MX JACKET | 2011
2013年、当時のアークテリクスアンバサダー、ジョー・グラントと世界遺産・小辺路を旅した時、ジョーは気品ある紫色のパーカーを着ていて、その姿はまるで高貴な僧侶のようであった。
「Squid Ink(イカ墨)はアークの中でも好きな色だ」と言った。
「わたしも同じく」と意気投合した。
高野山のお寺にある五色幕(紫・白・赤・黄・緑)の紫は、このイカ墨色のジャケットととても似た色で、調べると仏教では、袈裟に使われる「忍辱※」を表す色とのことだった。なるほど、トレイルランもクライミングも、ほとんど耐え忍ぶ時間なのかもしれないな、と思った。
あれから11年、このジャケットはまだ現役で、激しくクラックに突っ込んだ裾や肘には少し綻びがあるものの、身ごろは仕立てたばかりのスーツのようにパリッとしていて、袖を通すたびにあのころの新鮮な気持ちに立ち返ることができる。
「ジョー、わたしもまだ99%の忍耐の先にある、一瞬のキラメキを求めて暮らしているよ」と。
※忍辱(にんにく):仏教用語で恥を耐え忍び、心を動かさないこと