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相川 武夫/飲食業
TAKEO AIKAWA
ALPHA FL 30 | 2014
私は以前、ヘリで遭難救助されたことがあります。2015年初秋、当時上高地エリアの山小屋で働いていた私は、同僚と二人で前穂高岳東側の奥又白池へ、日帰り登山に出かけました。当日の天気は、日中晴れから夜は荒れ模様の予報。とても気持ちのいい朝から登山を始めた私たちは順調に歩を進め、7時にはパノラマコースとの分岐に到着。しかし、ここで道を大きく間違え、沢状地形の谷筋を登り始めてしまいました。
おかしいと気づいてはいましたが、大きく間違えているとは思わず、ゴミや焚き火の形跡もあるから大丈夫だろうと西の方向へ藪をかき分けていくと、別の沢状地形に差しかかりました。ここを下れば正規の道に出られると考えましたが、どうにも下れない崖に降りてしまい、右も左も、戻ることもできず、行動不能になってしまったのです(あとで聞いたら中又白谷というところだったようです)。
14時30分過ぎ、私は同僚に救助要請をしようと話しました。社長以下小屋の方々には大変申し訳ない思いで胸が張り裂けそうでしたが、生きるためにはこれしかない。携帯電話の電波もわずかに繋がり、天気は曇りで微風。今ならヘリも来てくれるだろうと、まず小屋に電話をし、それから警察に通報しました。ところがまさかの「この天気ではヘリを出せません、一晩ビバークしてください」という返事。私たちにあったのは、水とわずかな行動食、1枚のエマージェンシーシートだけでした。
夜になって雨が降り出し、風は強く台風並みの大荒れとなりました。私たちは、わずかな場所を分け合うように二人で腰を下ろし、1枚のエマージェンシーシートで体を覆いました。沢状地形のこの場所には冷たい水が流れ出しており、水流の弱い場所でなんとか凌いでいましたが、どうやら上部が決壊したようで、突然の落石に続き、滝のような激流が押し寄せてきたのです。幸い落石の直撃は免れましたが、なんとか水の流れを変えねばと、堰になるよう足元にザックを置きました。右手でザックとシートを押さえ、左手でシートとわずかな藪を握りしめ、風で体が持っていかれないよう耐え続けました。生きるために必死でした。
夜明けが近づくにつれて雨風は弱まり窮地を脱出。それでも体は冷たく、寝てはいけないと二人で声をかけ合い続けました。やがて夜が明けて雨は止み、待望の朝日が昇りました。この時浴びた朝日の暖かさは、一生忘れないと思います。9時ごろ、私たち二人は長野県山岳警備隊のヘリによって無事救助されました。絶対に生きるという意志と、精神的に強くいられたことがよかったのだと思います。私のミスがこのような事態を招き、心配をかけたみなさまには今でも申し訳なく思っております。
その時使っていたのが、この「アルファ FL 30」。下部にある多くの傷は、あの時の厳しさを今でも教え続けてくれます。強靱な素材は、あの厳しい状況から私たちを守ってくれました。しかし、もっと驚いたのは耐水性。一晩中水に打たれ続けていたザックの中身が、まったく濡れていなかったことです。翌朝救助を待つ間、中に入っていたコンロで火をおこすこともできました。購入してから今年で10年になる「アルファ FL 30」が、今でもラインナップにあることが、私はとてもうれしくてなりません。多謝。