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和田 幾久郎/ナムチェバザール代表
IKUO WADA
BETA LT JACKET | 1998
初めてアークテリクスを知ったのは、自分のお店を始めた1994年。今年で30年になリます。当時クライミングギアの輸入代理店がアークテリクスのチョークバッグを扱っていて、デザインに惹かれて自分用に買ったのがきっかけでした。数年後、ソルトレイクシティのOR(アウトドアリテーラー)ショーに行った際、帰りに寄ったジャクソンホールのアウトドア専門店(おそらく「Teton Mountaineering」)で見つけたのが、この「ベータ LT ジャケット」。「あのアークテリクスのアパレルがある!」という感じで、あれは衝動買いでした。当時「アルファ SV ジャケット」や「シータ ジャケット」もあったけれど、どちらも少し丈が長いデザインで、ショート丈の「ベータ LT ジャケット」が、とてもカッコよく思えたんです。
その後、日本でサンウエストさんが代理店を始められたので、すぐに取り扱いを始めましたが、最初は価格も高いしあまり売れませんでした。まあ、一般的なプロダクトではないし、バカ売れするものではないとはわかっていましたが、それでも売りたいと思ってひたすら販売し続けました。「現存する一番良い素材」「最新の技術」という売り文句があったから、お客さまにはすごく説明しやすかった。
当時、欧米のハイアウトドアブランドに対して、なんでこんなに高いのかと思うこともあったのですが、2015年にアークテリクスの本社工場にお邪魔したことがあって、「アルファ SV ジャケット」の生産ラインを見せてもらった時に、「全部手作業じゃん!」と驚いたんです。シームテープを貼る工程は衝撃的で、数ミリのミスも許さない精度で、職人がものすごいスピードで仕上げていくのを見た時に、「これなら安いよ」と思いました。もともと抱いていた期待を裏切られなかったのはうれしかったし、ものが作られている工程を見て、その後はより自信をもって、お店でお客さまにお勧めできるようになりましたね。「イチバンいいアウトドアウェアはどのブランドなの?」なんて聞かれた時には、いつも「アークテリクスですよ」と答えていました。
アークテリクスは、デザイン的に洗練されたブランドとして認知が広がっていると思うけれど、それは創業当初からでした。デザインのために機能を犠牲にしていないという姿勢も一貫している。これからも、世の中のアウトドアの素材、テクノロジーの最先端を追い求めてもらいたいと思っています。でも、「最新テクノロジーを使っているから、見た目はカッコ悪くてもいいか」ではなく、「あ、これ着てみたい!」という高揚感を与えるような商品を正しい方向で作り続けてほしい。どこへ行くにも着ていきたくなる一着、ユーザーのとっておきの一着になるものを作ってほしい。思い出をため込んでもらうには耐久性も必要。アークテリクスにはそんな商品を期待しています。